日本における米価高騰の構造的要因と政策的課題:生産制限政策の影響を中心に

1. はじめに

2024年以降、日本国内において米価の高騰が顕著となり、消費者、流通業者、生産者に多大な影響を及ぼしている。本稿では、米価高騰の背景として、生産制限政策(減反政策)の影響を中心に、気候変動、流通構造、政府の備蓄米放出政策などの要因を総合的に分析し、今後の政策的課題と対応策を検討する。

2. 米価高騰の現状

2025年5月現在、5kgあたりの米の小売価格は4,000円を超え、過去20年で最高水準に達している。この価格上昇は、以下の要因が複合的に作用した結果と考えられる。

2.1 気候変動による収量減

2023年の猛暑により、全国的に米の収穫量が減少した。特に、品質の低下や収量の減少が顕著であり、供給不足を招いた。

2.2 生産制限政策の影響

日本では、過去に米の過剰生産を防ぐため、減反政策が実施されてきた。2018年に形式的には廃止されたが、実質的には飼料用米や麦などへの転作補助金が支給されており、生産調整は継続している。

このような政策により、主食用米の生産面積が縮小し、供給量が減少したことが、価格高騰の一因と考えられる。

3. 政府の備蓄米放出政策とその課題

政府は、米価の高騰を抑制するため、備蓄米の放出を実施している。しかし、以下の課題が指摘されている。

3.1 放出量の不足

備蓄米の放出量は限られており、需要を満たすには不十分である。2025年3月末時点の民間在庫は179万トンであり、7月から8月の端境期には再び米不足が予想されている。

3.2 流通構造の問題

備蓄米の放出は、JA全農が落札し、業者へ引き渡す形で行われている。このため、通常の流通経路を通さないため、既存の流通業者との価格乖離が発生し、価格の安定化には至っていない。

4. 中間流通業者への影響

米の流通は、JAや独立系卸業者、地方系集荷業者などが担っている。これらの業者は、農家から米を集荷する際に「概算金」として前払いを行っているが、備蓄米の安価な流通により、通常米の販売が停滞し、在庫滞留や価格破壊のリスクが高まっている。

また、赤字販売を強いられる場合、独占禁止法の不当廉売規定に抵触する可能性がある。

5. 政策的課題と提言

5.1 生産制限政策の見直し

減反政策の実質的な継続が、主食用米の供給不足を招いている。生産制限政策を見直し、主食用米の生産を促進する必要がある。

5.2 備蓄米放出制度の改革

備蓄米の放出は、競売制度ではなく、年間流通実績に基づく按分割当制度への転換を検討すべきである。また、放出価格は一律設定とし、不当な値引き競争を禁止するガイドラインを策定することが望ましい。

5.3 流通構造の見直し

流通段階の簡素化と効率化を図り、価格調整が迅速に行える体制を整備する必要がある。また、備蓄米と通常米の併売を義務づける「バランス販売制」の導入も検討すべきである。

5.4 生産支援と品質維持の両立

小規模農家の支援策を強化し、日本米の品質を守る「小作多収モデル」の再評価が求められる。また、高付加価値米の海外輸出支援により、外貨獲得による農家収入の多様化を実現することが重要である。

6. 結論

米価高騰は、気候変動、生産制限政策、流通構造、政府の備蓄米放出政策など、複数の要因が複合的に作用した結果である。これらの課題に対処するためには、生産制限政策の見直し、備蓄米放出制度の改革、流通構造の見直し、生産支援と品質維持の両立など、総合的な政策対応が求められる。政府は、農業の持続可能性と食料安全保障の確保を目指し、早急に政策の再構築を図るべきである。